お役立ち情報コロナ禍におけるキッチンカービジネスの成功理由を読み解く
2021年02月12日
帝国データバンクの発表によると、2020年における飲食店事業者の倒産は780件。
過去最多の水準となりました。
業態別で見ると、「酒場・ビヤホール」が189件(構成比24.2%)で最多です。
前回のコラムでも触れましたが、都市部の駅前やオフィス街に店舗を構える飲食店を中心に、新型コロナウイルスの感染拡大の影響が数字となって表れています。
出典:帝国データバンク
飲食業界が苦戦を強いられている中、キッチンカー事業が順調に成長を続けています。
キッチンカーと言えば、モビリティビジネスのプラットフォーマー Mellow(以下、メロウ 本社:東京都千代田区)がここ数年、話題の中心です。
メロウは「TRUCK×LUNCH」というコンセプトのもと、2016年に、キッチンカーと空きスペースのマッチングサービス「TLUNCH」(現在はSHOP STOP)をスタートさせました。
豊かなランチスペースを創造することを目的に、ビルの空きスペースとフードトラックをマッチングし、消費者、キッチンカーオーナー、土地オーナー、そして自社と「三方良し」どころか「四方良し」を実現しながら成長を続けています。
そのビジネスモデルはテレビ東京系「ガイアの夜明け」でも取り上げられ、話題になったのは記憶に新しいところです。
2016年のサービス開始以来、順調に登録店数を増やし続けていたところ、昨年新型コロナ感染症が起こりました。
4月の緊急事態宣言を機に在宅勤務が普及し、オフィス街から人が消えたのは周知のとおりです。
順調に成長を続けてきたキッチンカービジネスにも陰りが見えるかと思われましたが、2020年12月にメロウの登録店数は1000店を突破。勢いが衰えるどころか、コロナ禍でも順調に成長を続けているのです。
しかも、登録したキッチンカーの前年同月比は1.4倍となり、2016年のメロウ設立以来1年間のキッチンカーの登録店数は過去最高の増加となりました。
出典:Mellowプレスリリース(2021年1月14日)
オフィス街から人が消え、飲食店の倒産件数が過去最高といわれる中、なぜ、登録店数が増え続けているのでしょうか?
それは、新型コロナ感染症下に適した出店戦略と、キッチンカーオーナー層の変化にありました。
昨年4月の新型コロナウイルス感染症拡大を受けた緊急事態宣言の発令後は、企業の在宅勤務要請により、オフィス街から住宅地に人の動きがシフトしました。
そこで、メロウはキッチンカーの機動力を活かし、出店場所を「オフィスビルの空きスペース」から「マンションの空きスペース」へシフトすることで、新型コロナウイルス感染症下における最適な営業場所の拡充に成功したのです。
「客が来ないなら客のもとへ」
オフィスビルから住宅街へ、まさに機動力のあるキッチンカーの強みを活かした戦略転換です。
次に、キッチンカーオーナー層の変化についても見ておきましょう。
コロナ前のオーナーは、個人事業主が中心でした。
ところが、緊急事態宣言後は、飲食店事業者の業態転換や多角経営の手段のひとつとしてキッチンカーへの参入が増加しました。
新たな収益の柱として、キッチンカーによる事業化を試みる事業者が増加しているのです。
メロウによれば、コロナ禍にもかかわらず、参入後半年足らずで行列のできる人気店となった店もあるそうで、「客が来ないなら客のもとへ」を選択した飲食店事業者のキッチンカー事業に成功の兆しが見受けられます。
前回コラムで取り上げた大手焼き鳥チェーンの「大吉」、そして今回のキッチンカービジネスの成功に共通して要因は、環境に適応しているという点です。
店舗ビジネスは容易に今ある店舗立地を変えることはできませんが、コロナ後も7割経済が予測される中、これまでの戦略を維持していては苦境から抜け出すことはできないでしょう。
小手先の対応にとどまることなく、戦略レベルから抜本的に見直しを推進できるかが、今後生き残れるかの分水嶺になりそうです。