お役立ち情報コロナ禍で急増したテイクアウト事業に見る失敗と成功(後編)
2020年11月16日
※前編をお読みでない方は、まずはそちらからお読みください。
売り方が9割
周囲は様々なジャンルの飲食店が軒を連ねる地域。昼時ともなれば各店舗の軒先に、から揚げ弁当、ハンバーグ弁当、とんかつ弁当、焼きサバ弁当・・・といったお弁当専門店の人気メニューをラインアップさせたようなメニューが並びます。どのお店も一見美味しそうに見えますが、逆に言うと、どの店もこれといって際立った特徴があるわけではなく、どこで買っても同じかなという印象がありました。
しかし、個人経営の天ぷら割烹A店は、そんな周辺店舗と一線を画す戦い方を選択しました。
メニューは周辺店舗が取り扱っていないメニューに着目し、自社の強みである「天ぷら」を使ったメニュー、「天ぷら重」の1種類に絞りました。
そして、その1種類のクオリティを磨き上げ、完成度を高めることに注力したのです。
インパクトある大海老の天ぷらと大きな出汁巻き卵、見た目に美しい色合いと盛り付け、特別感のある木製の容器、店名入りの和紙で包まれた装丁。
見た目で高級感を演出し、一流料亭のお弁当のようにも見て取れます。
大事なお客様とのランチや役員会等に出したくなるクオリティです。
この天ぷら重は、コロナ禍で外出や外食を控えている中、「少しでも心豊かに過ごしたい」という消費者ニーズをうまくとらえました。
同じ中身を一般的なプラスチック容器に盛り付け、価格を800円に下げて販売していたとしたら、ここまでのヒットにはならなかったでしょう。
周辺店舗が「お弁当」需要の奪い合いで消耗しつづける中、A店はそもそも戦う市場自体をずらし、「手土産需要」「会食需要」「プチ贅沢需要」といった需要の取り込みに成功しました。A店のオーナーのお話しによると、実際に来客用や手土産用に購入される方が多かったそうです。
周辺はお昼時ともなると、テーブル上に所狭しとお弁当を並べられ、各店のスタッフが複数名体制で必死に呼び込みを行っていました。しかし、結局売れ残る日々が続き、いつしかテイクアウト自体をやめてしまうことになります。
対して、A店は販売スタッフ1名のみ。呼び込みをせずとも見る見るうちに売れていき、いつも完売です。メニューを1つに絞ったことで、仕入れや調理、販売にかかるコストを抑えることができたうえ、プレミアム価格に設定したため、売り買い両面から十分な粗利率を確保できたそうです。
差異化されていない商品構成で競合店と需要の奪い合いになると、どうしても消費者の選択基準は価格に寄りがちです。しかし、価格競争は誰も幸せにはなれません。A店は価格競争を避け、“食欲を満たすためのお弁当”を提供するのではなく、“心豊かにすごす時間”という価値を提供することで、消費者の支持を得ることに成功しました。
コロナ禍で生き残りを図るうえで、ぜひ、みなさんにもマネしてもらいたい戦略です。
あとがき
季節が移り、政府が推進するGo toキャンペーンの後押しを受け、飲食業界にもお客様が戻りはじめました。ランチでA店の存在を初めて知ったお客様が、夜の営業時間に訪れて食事を楽しむといった効果も出ているそうです。これは、周辺店舗のように価格競争の世界で勝負を仕掛けていては、実現できなかったことでしょう。
前回の冒頭で、同じ商品であっても、市場が変わると単価が大きく変わるギフト市場の話をしました。
今回、2回の連載を通して私がお伝えしたかったのは、「戦う市場を変えてみる」という視点を持つことの大切さです。
同じ市場で戦い続けないといけないという制約はありません。「他がやっているから、自分たちもする」という発想ではなく、「他がやっていないから、自分たちがする」という発想を持ちましょう。そして、自分たちはどんな「お客様」に、どんな「価値」を提供したいのか。常にそういった視点をもって事業に取り組むことが、持続的な発展につながるということを忘れないでください。