飲食店の教育ノウハウ失敗させない!飲食業のクレド経営ノウハウ①
(クレド理解編)
ほとんどの企業には「企業理念」や「経営理念」というものが存在します。
「我々の会社は何のために存在しているのか」「会社が大事にすること」「経営者の想いや信条」といったものを明文化したもので、会社の方針や方向性、企業文化を形づくり、社員の行動規範や判断の拠りどころとなります。
つまり、企業が成長していく上で必要不可欠な羅針盤のようなものです。
しかし、これらの「理念」は実際には抽象的に書かれているものが多く、意味するところを従業員に理解されていないことも珍しくありません。
そこで、その理念や経営者の想いを達成するために、従業員の行動指針や判断基準を具体的に指し示した「クレド」が注目され、採用を進める企業が増えているのです。
本記事では、「クレド」とはいったいどういうものなのか、そして、どのように作成し、どのように浸透させるのかについて、全3回に渡って、ご紹介していきたいと思います。
目次CONTENTS
01美味しい」だけでは、生き残れない。
繁盛している飲食店には、必ず「理由」があります。
そして、繁盛店の経営者にその理由を聞いてみると、みなさん口を揃えて同じようなことを挙げられます。
・味には自信があり、うちにしかない自慢の看板メニューがある
・接客に力を入れている
ご自身に置き換えてみられたとしても、納得の回答だと思います。
かつて、NTTグループが約2,200人を対象に行った「行きつけのお店の条件」を問う調査において、
1位 料理の味が良い
2位 お店の雰囲気や接客が良い
という結果が出ていました。
逆に、「二度と行きたくないお店」は、
1位 料理が美味しくなかった
2位 お店の雰囲気や接客態度が悪かった
と裏返しの結果です。
そして、1位と2位は非常に僅差でした。
さらに、約2,700人を対象にした別の調査では、「二度と行きたくないお店」として、
1位 スタッフの態度が悪い
2位 料理が美味しくなかった
といった具合に、「接客態度の悪さ」が堂々の1位にランクされていました。
*出典:「飲食店の再来店についての実態調査(n=2,748)」 株式会社ROI調べ
いくら料理に自信があったとしても接客が良くなければ、お客様を増やすどころか「失いかねない」ということです。
ということで、繁盛するお店づくりのために、
・美味しくて、他にない看板メニューづくり
・接客品質の向上
に早速取り組みましょう。
というのは簡単ですが、どの店も苦労しているのが、この接客品質の向上でしょう。
スタッフ全員のホスピタリティ・マインドを一定水準以上にもっていくのは至難です。
用意した接客マニュアルに沿って行動するように促したり、「あれやれ」「これやれ」と指示を飛ばしてスタッフを動かしているようでは、お客様の期待を上回るサービスを提供することは難しいのです。
ただ、難しいからといって、後回しに出来ないのは、調査結果からも明らかです。
02スターバックスが、質の高い接客を1,500店で提供しつづけられる理由
ここで、「スターバックス コーヒー」の事例をご紹介したいと思います。
皆さんもよくご存じのスターバックスは、2019年末時点で国内1,530店を展開し、4,200人以上の方が働かれています。
スターバックスの接客には定評がありますが、驚くことに、いわゆる接客マニュアルというものが存在しません。
では、1,500店以上の店舗それぞれで、高い次元の接客をどのようにして実現しえているのでしょうか?
ヒントは、「Our Mission and Values」という世界中のスターバックスに共通する価値観にありました。
OUR MISSION
人々の心を豊かで活力あるものにするために―
ひとりのお客様、一杯のコーヒー、そしてひとつのコミュニティからOUR VALUES
私たちは、パートナー、コーヒー、お客様を中心とし、Valuesを日々体現します。
- お互いに心から認め合い、誰もが自分の居場所と感じられるような文化をつくります。
- 勇気をもって行動し、現状に満足せず、新しい方法を追い求めます。
スターバックスと私たちの成長のために。- 誠実に向き合い、威厳と尊敬をもって心を通わせる、その瞬間を大切にします。
- 一人ひとりが全力を尽くし、最後まで結果に責任を持ちます。
- 私たちは、人間らしさを大切にしながら、成長し続けます。
出典:スターバックス ジャパンホームページ
https://www.starbucks.co.jp/company/mission.html?nid=mm
OUR MISSIONに掲げられた「人々の心を豊かで活力あるものにする」ことがスターバックスの使命であり、OUR VALUESには、それを実現するための行動指針が定められています。
つまり、スターバックスはただ「美味しいコーヒー」を提供するのではなく、コーヒーを通じて顧客に感動と活力を与える「顧客体験」の提供を追求しているのです。
ただ、感動を生む顧客体験というものは千差万別、お客様それぞれで異なります。
つまり「正解」がありません。
これこそが、スターバックスに接客マニュアルが存在しない理由です。
スターバックスは、「●●をしなさい」という上意下達の指示ではなく、「あなたがどうしたいのか」「どう成長したいのか」を問いかけ続ける価値観「WHY WE’RE HERE(私たちがここにいる理由)」を大切にしています。
ストアマネージャーからパートナーに、そしてパートナー同士で、「私たちがここにいる理由」を問い続けます。
「WHY WE’RE HERE」を自らに問いかけ続け、答えを自ら考えることで、パートナーにやる気が生まれ、OUR VALUESに基づいたサービスを各自が提供できるようになるのです。
スターバックスのこの「Our Mission and Values」という価値観こそが、いわゆる『クレド』にあたるものです。
03事例で理解するクレド
クレドとは、ラテン語の『約束・信条』を意味する言葉で、『従業員全員が心掛けるべき信条や行動指針』のことを指します。
抽象的に表現された「企業理念」や社長が抱く「想い」を従業員が「行動」に落とせるよう、価値観や行動指針を簡潔且つ具体的・実践的に表現したものです。
企業理念 | 抽象的 | 企業の存在意義や目的などを指し、創業時から代々受け継がれるもの。 |
---|---|---|
クレド | 具体的 実践的 |
企業理念を具体化し、簡潔な文章で表現 企業の成長や時代の変化に合わせて改定も行う。 |
先程、スターバックスの事例について紹介しましたが、クレドを導入している企業は多数あります。
最も有名なところでいうと、ザ・リッツ・カールトンの「ゴールドスタンダード」や、ジョンソンアンドジョンソンの「我が信条」でしょう。
ザ・リッツ・カールトン「ゴールドスタンダード」
https://www.ritzcarlton.com/jp/about/gold-standards
ジョンソン&ジョンソン「我が信条」
https://www.jnj.co.jp/group/credo/index.html
ここまで外資系企業ばかり紹介してきましたが、日本企業では楽天の「楽天主義」が有名です。
楽天の企業理念は、
「イノベーションを通じて、人々と社会をエンパワーメントする」
ですが、この企業理念を達成するために、全社員が取るべき行動を「成功のコンセプト」として5つの項目で表わしています。
楽天主義 成功のコンセプト
常に改善、常に前進
人間には2つのタイプしかいない。
【GET THINGS DONE】様々な手段をこらして何が何でも物事を達成する人間。
【BEST EFFORT BASIS】現状に満足し、ここまでやったからと自分自身に言い訳する人間。
一人一人が物事を達成する強い意思をもつことが重要。Professionalismの徹底
楽天はプロ意識を持ったビジネス集団である。
勝つために人の100倍考え、自己管理の下に成長していこうとする姿勢が必要。仮説→実行→検証→仕組化
仕事を進める上では具体的なアクション・プランを立てることが大切。顧客満足の最大化
楽天はあくまでも「サービス会社」である。
傲慢にならず、常に誇りを持って「顧客満足を高める」ことを念頭に置く。スピード!!スピード!!スピード!!
重要なのは他社が1年かかることを1ヶ月でやり遂げるスピード。
勝負はこの2~3年で分かれる。出典:楽天ホームページ
https://corp.rakuten.co.jp/about/philosophy/principle/#success
やや抽象的な企業理念を社員の具体的な行動に変えるため、5つの項目に加え、簡単な解説も添えられています。
「プロとしての自覚と一切の妥協を許さない強い意思を持ち、他社の10倍以上のスピードで業務に取り組め」といったことが、端的且つ非常に迫力をもって伝わってきます。
最後の「スピード!!スピード!!スピード!!」は、変化と淘汰の速いデジタル業界で勝つために必要な思考と行動指針が、これ以上無いレベルで明確に表現されていると言えるのではないでしょうか。
04クレドとマニュアルの違い
ところで、クレドとマニュアルは全く異なるものです。
マニュアルは一定の状況を想定し、その際の「対応」「対処法」を定義するためのものであり、イレギュラーな状況が発生すると、途端に力を失います。
対して、クレドが定義するものは「信条」や「価値観」、「行動指針」です。
どんなイレギュラーな事態が発生しても、クレドが示す「価値観」に基づいて自ら考え、行動することをできるようになるのです。
つまり、マニュアルが「やり方」を示すの対し、クレドは「あり方」を示すものと言えるでしょう。
マニュアル | 仕事の やり方 |
一定の状況に対し、一定の行動をルールとして規定するもの |
---|---|---|
クレド | 仕事の あり方 |
従業員の価値観に働きかけるもの。価値観を共有することにより、自らの頭で考え、自らの意志で適切な行動をとることを可能にする |
05クレドを導入する3つのメリット
最後にまとめとして、クレドを導入する3つのメリットを整理しておきます。
<クレド導入の3つのメリット>
- 理念や経営者の想いを従業員に浸透させることができる
抽象的で伝わりにくい企業の価値観や経営者の想いを、具体的な信条と行動指針として全従業員に示し、浸透させることができる。 - 主体的に行動できる人材が育つ
信条や行動指針を具体的に示すことで、意思決定の判断基準や価値観が明確になり、従業員は自身で判断して適切且つ迅速な行動をとることができるようになる。 - 従業員のモチベーションを向上させることができる
上意下達の指示命令による行動ではなく、業務に主体的に関われる喜びが生まれ、従業員のモチベーションを高めることが出来る(内発的動機付けが出来る)。
まとめ
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。
少しでも皆様のクレドに対する理解を深めることが出来ていれば幸いです
クレドは決して大企業だけのものではありません。
むしろ規模の小さな会社ほど、スムーズな導入が可能です。
理念と経営者の想いを従業員全員で体現したいと考える飲食業、飲食店運営企業様は導入を検討されてみてはいかがでしょうか。
次は、クレドの作成ノウハウについてお伝えしますので、よろしければご一読ください。